STORY02

特別対談
淡海乃海 水面が揺れる時

小説の世界からメディアミックスへ──いざ、出陣!
書籍編集×コミックス編集×原作者で語る作品づくりの軌跡を語ってもらいました。

淡海乃海 水面が揺れる時

2017年TOブックスにより書籍化。信長、秀吉、家康の三英傑を救った唯一人の戦国武将・朽木基綱へと転生した人物の生涯を描く戦国サバイバルである。
「小説家になろう」の歴史ジャンルで年間1位(2016年度)を誇る人気作であり、コミカライズや外伝書籍も発売。ドラマCDや舞台公演などメディアミックスも続々行われる。その勢いは止まることを知らず、早くも累計75万部(電子書籍含む)を突破する。『このライトノベルがすごい!2021』 (宝島社刊)の単行本ランキングでTOP10にランクイン。

― 淡海乃海 水面が揺れる時とは?

D.S:書籍の1巻が2017年11月発売でしたよね?

イスラーフィール:そうですね、思えば早いものです。ちょうど4年半くらいですね。

D.S:元々、書籍化するつもりはなかったと伺っていましたが、今となっては

イスラーフィール:そうですね、当時は特にそういった意識は特になくて、自分は物語を描ければそれでいいと思っていました。自分なんかの作品がお金を出すに値するか正直、疑問でしたね。

D.S:何か心変わりしたきっかけはあったんですか?

イスラーフィール:ひとえにTOブックスさんの熱意でしたね(笑)。非常に情熱的に「こんなに面白い作品を世に出さないわけにはいかない!」と。そこまで仰っていただけるんでしたら、ぜひとお願いした次第です。

D.S:たしか最初のご相談は編集長からでしたね。おかげで一緒にお仕事できているんだから、とてもありがたいお話です(笑)。実際にご自身の本が出た時はどう思われましたか?

イスラーフィール:そうですね、長かったなと感じました。本を出すのってこんなに大変なんだなと実感しましたね。その分、実際に店頭に並んでいるのを見た時はかなり感慨深かったです。あとは、売れるかどうかですね。
僕はすごく素敵に仕上げてもらったなと感じていますが、それが売れるのかどうかはまた別の話ですから。発売日に近くの書店へ行って、「買ってる人いるかな?」って覗きに行った思い出があります(笑)。

D.S:ほんと実際に売れて良かったです!碧風羽さんがとても綺麗な絵を描いてくれたのも大きかったですよね。

イスラーフィール:そうですね、僕の親族も大喜びでした。綺麗なイラストなんですよね。淡海乃海の水面に刀が浮かんでいて、それを見上げている構図です。まさに作品のスタートにふさわしい一枚だと思いました。
でも、当時は色々迷ったんですよね。例えば、表紙に女の子を入れるべきかとか。

D.S:話しましたね(笑)。歴史小説ではありますが、あくまで体裁上はライトノベルです。どこまでライトノベルを遵守するかは迷いましたね(笑)。実際にはしっかりと作品性を重視する今の案に落ち着いた訳ですが。書籍版のサブタイトルについてもそうです。

イスラーフィール:「~三英傑に嫌われた不運な男、朽木基綱の逆襲~」ですね。

D.S:初めて作品を知る方へも分かりやすい導入を試みたものでした。いっぱいアイデアをありがとうございました。

イスラーフィール:いえいえ、おかげさまで基綱の人となりがより伝わりやすくなったかと思います。そういった話もあって、重版のお話をいただいた時にはようやく胸を撫で下ろしましたね(笑)。

D.S:1週間足らずでしたからね。これはかなり早いペース。決まってすぐにイスラさんへお電話したのを覚えています(笑)。

イスラーフィール:ありがとうございます(笑)。作者の立場だと実際の売上がどのようなペースなのかあまり分からないので、逐一伝えてもらえてありがたかったです。

D.S:コミカライズも早い段階で決まりましたね。当時はまだ弊社のコミカライズはまだ立ち上げたばかりだったんですが、S.Tさん自ら推してくれて。

S.T:そうですね。売れているタイトルということもさることながら、読んでみて世界観に圧倒されてしまいまして。「あ、絶対コミカライズしなきゃ」ってなりました(笑)。

イスラーフィール:ありがとうございます(笑)。

S.T:先の話でノベルの話にも出た表紙の件は、コミックスでもありました。「小説家になろう」の作品ってそれまでヒロインを目立たせるものが多かったんですが、「淡海乃海 水面が揺れる時」は3巻(コミックス)までヒロインが出てこないですからね(笑)。モデルケースもない異色中の異色でした。
それでD.S.さんやコミカライズ担当・漫画家のもとむらさんへ相談していたんですよね。
結果、なぜか連載先のタグで「じじいヒロイン」なんて書かれたりします(笑)。

D.S:じじいヒロイン(笑)。

S.T:面白いですよね(笑)。D.Sさんが仰る通り、ヒロインを見せることが作品の主軸ではありませんが、男性読者が多い作品なので、見せられるなら早めにという想いはありました。なので2巻の口絵・3巻口絵では小夜ちゃんを投入した形です。

D.S:祝言のシーン、ほんと良かったです。

S.T:そこから作中の戦も苛烈になっていくので、作品のメリハリは特についたのではないでしょうか。歴史物なので、やはり殺陣や合戦のシーンは力を入れたかったんです。地道にもとむらさんと打ち合わせしました。「盛り上げられるように」と、大変頑張って頂いたと思います。

イスラーフィール:そのあたりからでしょうか。読者さんたちの熱が一気に上がっていった印象があります。

D.S:好評が多くて嬉しい限りですよね。作品の世界観やキャラクターの濃さがコミカライズによって、より多くの読者へと伝わっていっていると実感します。元々はどういった構想から作品が生まれたんですか?

イスラーフィール:元々僕はとある作品の二次創作を書いていたんです。その中である欲が湧いてきたんです。

D.S:欲?

イスラーフィール:自分で世界観を構築してみたかったんです。すでにある土俵ではなく、自分で一から。それが歴史物だったんです。

D.S:朽木元綱を主人公にというのはどうして?

イスラーフィール:詳しくは1巻のあとがきも読んで欲しいのですが、朽木元綱という人物のことが気になって仕方なかったからですね。不運だけど、強かな男です。
彼の生き様を想像するうちに、最初は信長の天下取りを助くお話にしようと筆を取り始めました。ただ、書いているうちになぜか基綱自身が天下をとるお話になってしまいましたが(笑)。

D.S:プロットがない故にですね(笑)。史実の元綱は、信長、秀吉、家康とも関わり深い人物なんですよね。
淡海乃海においてはどういうキャラクターへと意識したんですか?

イスラーフィール:そういう意味では変わらないです。どちらもただただ今日を生き延びようと懸命に生きる人物です。強かな人物ですが、少し間が悪いというか不運な人物なだけ。そんな彼がどう生きるかを改めて自分の手で描いてみた次第です。現代への教訓は特に意識していませんが、食うか食われるかの過酷さを描いています。
当時は戦が頻発し、死が身近にあります。みな、生きることに貪欲なんですね。当然、現代のような社会保障はないわけですから、尚更です。
強いことが正しいことであり、弱いことが悪なんです。とても厳しい世界です。