本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~

香月美夜「本好きの下剋上」ドラマCD3アフレコレポート【中 編】

【前 編】|【中 編】|【後 編】

まだまだキャラの声の確認は続きます。最初は確認しなければならないキャラが多いですからね。

ダームエル役は梅原裕一郎さん。騎士らしいとは思ったけれど、怒鳴っている台詞なので通常の台詞を聞かないとキャラの声に合っているかどうかはよくわかりません。この部分だけならば問題なしと流しました。

その少し後に出てくるのがマティアス。梅原さんが兼ねて演じてくださっています。メインはダームエル役ということでキャスト表に書かれていますが、多分、ダームエル役よりマティアス役の方が台詞は多いんじゃないかな? 貴族院だからダームエルは不在で回想シーンでしか出てこないんですもの。

「ふわぁ、マティアスがマティアス……」

梅原さんのマティアスを聞いた鈴華さんの語彙力が仕事をしない感じでした。(笑)
めっちゃ優しくて柔らかい感じの声なのに、芯がある騎士らしさを感じさせてくださいます。これ、マティアスのファンは転がり回って喜ぶんじゃない? 期待しててください。

リヒャルダ役は宮沢きよこさん。この方は元々国語の教師をしていて、定年退職後に声優の学校へ入って勉強し、声優デビューした方だそうです。リヒャルダが説明している時の口調というか、間の取り方などがとても良い感じだと思っていたのですが、経歴を伺って納得です。それにしても、自分がやりたいことのために真っ直ぐ突き進むチャレンジ精神と努力が素晴らしいと思います。見習いたいと思いました。

「うーん、リヒャルダは前の声がすごく柔らかいおばあちゃまだったので、それと比べるとちょっと固いと思うのですが……」
「優しいだけじゃない教育係的な一面を考えると、これくらいがちょうど良い気もしますけど、香月さん的にはアウトですか?」
「これはこれであり……。何というか、椎名さんのリヒャルダよりは波野さんのリヒャルダ寄りって感じです」
「わかります! 確かにそっち寄り!」

リヒャルダ役にOKを出したら、次はブリュンヒルデ役です。フィリーネとの兼ね役で石見舞菜香さんが演じてくださいます。

「どっちかというと、ブリュンヒルデよりレオノーレのイメージかな?」
「ちょっときついですよね」
「貴族らしいお嬢様ですが、側仕えでローゼマインの世話をするキャラなのでもうちょっと柔らかくしてほしいです」

一度の指摘で気位の高そうなお嬢様感はそのままに、声がふわっと柔らかくなりました。石見さん、お見事です。

その次はハルトムート。ある意味、今回のドラマCDで一番気になる&面倒な男です。おまけSSでも手こずらせてくれました。そんなハルトムート役を演じてくださるのは、内田雄馬さん。

「うーん、もうちょっとはっちゃけてほしいというか……ハルトムートなのに気持ち悪さが足りないというか」
「ハルトムートなのに落ち着きすぎなんですよね」

陶酔感を増やしてほしいとか、もうちょっと狂信者な感じが必要とか、、私と鈴華さんが言いたい放題に言っているのを、音響監督さんが綺麗にまとめて必要なところだけを内田さんに伝えてくれます。

「わぁお! ハルトムートらしいハルトムートになりましたね」
「すごい! 気持ち悪いです!(褒め言葉)」

このハルトムートにローゼマインについて語らせたい。けど、聴きたくない。そんな感じ。素晴らしいです。

ヴィルフリート役の寺崎裕香さんは全く違和感なしです。ヴィルフリートのイメージそのまま。ぶっちゃけ、イメージ云々よりユーディットとの声の差に意識を全部持って行かれます

「ヴィルフリートは言うことなしですよね。ネタにならないレベルで」
「それを言うならシャルロッテも、ですよ」

シャルロッテ役の本渡楓さんも違和感ありません。可愛い声の中にも芯の強さがあって、領主候補生らしいキリッとした雰囲気なのです。可愛い声だけれど、フィリーネの声質とはまた違っていて、特に言うことなし。

声のイメージに関する話が終わったら、台詞の中の修正点を上げていきます。Web版のモノローグを台詞に変更した箇所は下町言葉が微妙に残っていたり、敬称が足りなかったりするなど、読んでいただいて初めて発覚する修正点がいくつかあるのです。音響監督さんはそれらをメモしてブースへ行き、声優さん達に伝えます。



それから、テスト二回目。トラウゴットをトラゴウッドと読んで練習していたのか、なかなか直らなかったり、ボニファティウスがなかなかスルッと言えなかったり、旧ヴェローニカ派に苦戦したり……。やっぱり『本好きの下剋上』の単語は大変そうです。
井口さんが詰まった時に小さく「うぇっ」って呻くのが、めっちゃローゼマインっぽくて可愛いとか思っていてごめんなさい。

アクセントに怪しい点があれば指摘するわけですが、この辺りは音響監督さん達がすごいですね。音響監督さんの手が届くところに「アクセント辞典」があり、ちょっと怪しいところがあるとすぐにそれを確認するんですよ。すごく調べ慣れているのでしょうね。確認が速いんです。ベテランの仕事だなって思いました。

本番のテイクを収録したら、ノイズの入ったところや勢いのある会話で声が少しかぶっているところなどを部分、部分で録り直していきます。この切り取られた台詞にちゃんと感情を乗せられるのは、何度見ても感動的です。本当にすごいですよ。



1章が終わったら2章のテスト開始。
新しいキャラが出てくるので、その声のチェックから始まります。

シュバルツ役は本渡楓さんで、シャルロッテ役と兼ねて演じています。ヴァイス役は石見舞菜香さんで、フィリーネ役と兼ねてますね。二人とも全く問題なし。

「可愛いと可愛いの共演って感じですよね。こう、シュバルツとヴァイスを撫で繰り回したくなるような……」

ソランジュ役は宮沢きよこさんです。リヒャルダ役と兼ねています。やや厳しめのリヒャルダと違って、とても柔らかくて優しい声のおばあちゃん。同じ人とは思えません。声優さんって本当に器用だと思います。

「ソランジュは問題なしですね。ルーフェンはどうですか?」

ルーフェン役は山下誠一郎さん。コルネリウスと兼ねています。全然イメージが違うので、キャスト表を見直さなければわかりませんでした。

「もうちょい若い感じというか、爽やかにしてほしいです。厳つすぎます」
「かなりイメージピッタリだと思いましたが、厳ついとダメなんですか? ルーフェンは厳ついですよね?」

私の評価が意外だったのか、プロデューサーや担当さんから驚きの声が上がりました。ルーフェンは確かに暑苦しい感じの熱血教師ですけど、もうちょっと爽やかさが欲しいんですよ。そう、松岡修造さんのように!
私の中でテストの声はアウブ・ダンケルフェルガーなので、少し修正していただきました。うん、良い感じ。

「ローデリヒの父の年齢などはどうですか?」
「問題ありません。白の塔の一件で豹変した感じがとても良いですね」

ローデリヒの父役は竹内想さんです。回想シーンにしか出てきませんが、ローデリヒへ普通に話しかけていた声と、厳しくて乱暴な感じに変わった声にちゃんと違いが出ています。この変化があるからローデリヒの戸惑いに共感できるんですよね。出番は少ないけど、重要。

「あ、普通のダームエルが来ましたよ」
「香月さん、言い方!(笑)」

普通のテンションのダームエルは柔らかくて親切で、領主一族の護衛騎士がちょっと板に付いてきた下級騎士の感じがします。この声で優しくされたら、そりゃフィリーネがときめくわけですよ。これは良い。……というか、ダームエルもマティアスも優しい感じの騎士なのに、梅原さんの声が全く違うんですけど。それでどっちもカッコいいとか、すごいね。

声のイメージについて意見を出し終わったら、修正点や注意点を挙げていきます。

「ハンネロー『レ』がハンネロー『ネ』に聞こえるところがありませんでした?」
「×ページのローゼマインの台詞ですが、原作と違って声に出す台詞なので『神官長』を『フェルディナンド様』に修正してください」
「旧ヴェローニカ派の子供がヴィルフリートの声に聞こえます。違う声でお願いします」
「△ページのローデリヒの台詞ですが、『いつでもよいので』を『いつでも構わないので』に修正してください。それから『父』を『父上』に修正お願いします」
「ローデリヒの感情はだんだん強くなっていくようにしてください。最初が強くなりすぎると、後がきついです」

修正点や注意点を出すのは私だけではありません。プロデューサーさんや担当さんも出します。次々と出てくるのを音響監督さんがチェックしてブースへ移動し、声優さん達に伝えるのです。

テストが終わったら本番を録っていきます。一通り録った後、細かくノイズや気になる点を修正していく流れは1章と同じ。サクサク進んでいきます。

この2章では、ハルトムートとコルネリウスの会話があるのですが、すごく幼馴染み感というか、慣れた空気のやりとりがあって良いですね。あと、個人的には護衛騎士ではなく、恋人モードになった時のコルネリウスにドキッとしました。これ、声だけで惚れる人がいるんじゃない? 私は「あれ? コルネリウスってこんなにカッコ良かったっけ?」ってなりました。山下さんの声の魔法、すごいですよ。

内田さんのハルトムートはとてもハルトムートでした。

「うわぁ、ハルトムートがすごく気持ち悪いですね(褒めてる)」
「ローゼマインを見下ろして陶酔している絵面が浮かびますよ(最高の褒め言葉)」

いや、もうそれ以上の褒め言葉がないです。ハルトムートのファンはきっとそういう気持ち悪さを含めて愛してくれていると思います。むしろ、気持ち悪さが完全に抜けたら「キャラが違う!」って怒ると思うんですよね。ハルトムートは気持ち悪さが大事。

回想シーンは遠藤さんが成人男性なので、ローデリヒ8歳がどんな感じになるのか心配だったのですが、ちゃんと幼くなっていてよかったし、竹内さんの演じるローデリヒの父親の理不尽感も良い感じでした。

「先生、何か気になるところは?」
「えーと、ガヤを収録する時なんですが、脚本に『わっと沸く側近達』とありますよね。原作ではリヒャルダ、ユーディット、フィリーネの三人しかいないので、男性の声を入れないように気を付けてください」

プロデューサーや担当さんが他のページにも「側近達」の指定がないか確認する中、音響監督さんが「他は?」と尋ねました。

「まだあるんですよ。えーと……結構重要なんです」

私は脚本をパラパラと捲って、印を付けていたところをビシッと指差します。

「×ページ! ハルトムートに対するコルネリウスのドン引き具合が足りません。テストの時くらい引いてほしいです!」
「ん。じゃあ、テストの時の感じで」

カッコいいコルネリウスと、ハルトムートにドン引きするコルネリウスの両方が味わえます。ドン引き具合をお楽しみに。(笑)

【前 編】|【中 編】|【後 編】

戻る